述井庸治に

『息子との出会い』

 
 そして、重盛の息子がやって来た。
 彼は36歳、私が重盛と最後に会った時の年齢である。
 今、目の前にあの時の重盛がいる。太い眉、目を細めながら優しく人を見るこの仕草、ジェスチャーの大きな喋り方、何もかも父親そっくり、とても不思議な感覚だった。タイムマシンに乗りあの日の重盛が私の前に現れた。私は昔の自分に引き戻されたような気がした。そして彼に言った。
「君に会うのは初めてではない。私は以前君に会っている」
 重盛に誘われ、私は何回か重盛の家に行ったことがある。当時、彼は2~3歳。覚えてるわけがない。
「えっ、そうなんですか」
 彼は驚き、そして言った。
「私には父からの遺言が2つありました。1つは『慶應に行け』もう1つは『英語を使えるようになれ』でした。私は頑張り慶應大学へ行きました。しかし英語がまだなんです。そこで私はその英語を学びたく先生のところに参りました」
「うん、分かった」
 と私は答えた。しかし、私の返事は重盛の息子にというよりもむしろ父親の重盛にしていた。
 息子は外資系の会社に勤めている。
「英語は必要でしたが、いつも英語から逃げていました。しかしもう逃げるのはやめました。父が英語をマスターするチャンスを私に与えてくれたような気がします」
 そして彼へのレッスンが始まった。
 レッスン中に、彼の顔をみていると、私は父親の重盛を思い出し時折り涙してしまう。すると彼はすまなそうな顔をして優しく私に声をかけてくれた。
「先生、大丈夫ですか?」

 仕事でも英語を使う機会が多い彼の成長は著しかった。3カ月半もすると十分英語でコミュニケーション出来るようになった。
 6カ月立った時、私は彼に言った。
「重盛君、もう大丈夫だよ」
 すると、彼が私に言った。
「先生、1年は英語を学ぶつもりで来ました。もう少しお世話になることは出来ませんか?」
「それは構わないよ」
 と私は答えた。しかし、それから間も無く彼は私に言ってきた。
「先生、仕事が急に忙しくなりここに通うことが難しくなりました。先生、本当にお世話になり、ありがとうございました」
 そして、彼の最後のレッスンが終わり私は彼とスクールの近くのバーに飲みに来た。
 2人で飲んでいると、重盛を思い出し懐かしさがまた込み上げてくる。
「先生、父の話を聞かせてください」
 と彼が言った。
 そこで、重盛と私はライバルだったこと。そして私は重盛になかなか勝てなかったこと。また重盛がなぜレゴを去ったのか。さらには重盛と飲みに行った時のエピソードを紹介した。