述井庸治に

ソウルの完成

 それから間も無く私が雀荘に行くと、彼の妻が私に言った。
「先生、主人がまた入院しました。今回は帰って来れないと思います」
「分かりました。明日病院にお伺いします」

 病室に入ると、彼の妻がベッドのそばの椅子に座り彼の顔をじっと見ていた。
「あっ、先生」
彼女が、私を見て椅子から立とうとした。
「そのまま、そのまま」
 私は右手を差し出し静かに手を上下に振り合図した。そして、彼のそばにいった。
頰はこけ、目はくぼみ、顔がさらに痩せほそり、寝てるというよりは目をつむり、静かに死を迎えようとしている。
「先生が来てくださいましたよ」
 彼の妻が、やさしく彼に声をかけている。
「マスター」
 私が静かに声をかけると、私の声の方を向こうと、頭をわずかに動かした。
「来ましたよ」
 と私が言うと、彼は、私に気づき眼を開けようとしている。また、起きようとしているのか、お腹に載せた右手をベッドの上に下ろし、僅かに力を込めている。
「マスター、そのままで大丈夫」
 と言うと、彼は安心したのか、口元から、ほのかに笑みがもれた。口を僅かに動かし何か言っている。
「アリガトウ」
 と私には聞こえた。

 そして、帰り際に私は言った。
「マスター、また来るからね」
 そして、その部屋を出た。
 ただ、私には、これがこの世で彼に会う最期であることが分かっていた。
 その翌日、彼はこの世の全ての修行を修了した。
 彼の妻から電話がはいった。
「先生、さきほど、主人が旅立ちました。いろいろ有難うございました」
「そうですか。ご愁傷様です」
「先生、主人より先生への遺書が有りました。それを先生にお渡ししたいのですが」
「分かりました。それでは、いただきに参ります」
 彼の死を伝えられた私は、最期に見せた彼の笑顔が心に浮かんでいた。

《遺書》
述井先生様
 長い間色々とお世話になり有りがとうございました。
 今思うに自分にも悪い面、人様に迷惑をかけて来たと思います。
 長い間有りがとう御座いました。
 楽しいお酒を飲みたかったです。
 残念に思います。            
             棟方

 マスター、私はあなたに云いたい。
「あなたの描いたこの一枚の絵が、私とあなたの親友の絆を永遠に守り続けてくれる!」