一枚の絵


 《序 章》

「This picture was painted by my friend ……」

 今日も、私はあなたの描いたこの一枚の絵の前に立ち、約束どおりあなたとのことを私の生徒たちに話している。

 ここは町中にある小さな英会話スクール。その教室のかた隅に、英会話教室には似合わぬ1枚の絵が、銀色のしっかりした額縁に入れられ壁に飾られている。
 この絵は私の親友、棟方(むなかた)さんからのプレゼント、彼は私より2歳年上、そして雀荘を経営していた。
 私は、この英会話教室でこの町の人たちに英語を教えている。私の趣味は麻雀、スクールが休みの日曜日に彼の経営する雀荘へよく麻雀を打ちに行った。
 当時、私は彼があまり好きではなかったというよりむしろ嫌いだった。つよい東北訛りの朴訥とした喋り方からはとても想像できないが、彼はいわゆる詐欺師である。彼の勤めていた会社の金を横領し刑務所にも入っている。そして、彼を取り巻く輩(やから)も刑務所で知り合ったとかで一癖も二癖もありそうな良からぬ連中が多かった。
 しかし不思議なことにその雀荘はとても繁盛していた。   
 彼が刑務所にいる数年の間、1人で雀荘を切り盛りする彼の妻に同情した町の有志たちが、その店を応援していた。雀荘には似合わない地元の人たちが集まり、また雀荘にしては珍しく女性客も多かった。客同士が友達となりいわゆる「客が客を呼ぶ」この町の社交場となっていた。
 彼が刑期を終え、マスターとしてお店にでるようになる。彼のことを良くいう人はいない、しかし客足は途絶えることはなかった。何とも不思議な店である。

今日は日曜日、私のスクールはお休み、そこで彼の雀荘に行き麻雀を打っていると、マスターが私のところにやって来て、そして言った。
「先生、今日(きょお)お時間とれやんせんか?」
「えっ、何かありますか?」
 私は、どうせまたインチキ臭い話を持ってくるのだろう、面倒なことだと思っていた。
「いえいえ、私事(わだしごと)なんでやんすが、先生とお話がすたくて」
 いつもと雰囲気が違う。どうしたのだろうか?
 そこで私は言った。              
「分かりました。それでは、このゲームが終了したらでいいですか?」
「すいやんせん」
 そして20分ほどでゲームは終了した。