述井庸治に

《国際会議三日目》


 カーク社長から「自分の意見を言うように」と言われた私は、この日はなんとかうまくやってきた。
しかし、1つのワークショップで、また他の人と同じことを言ってしまった。
いつものようにドイツからの参加者が私の考えていることを言った。そこで私は別の答を用意した。
しかしなんたる事、私のひとつ前の発言者が私の準備していた答を言ってしまったのだ。
もう頭の中は真っ白、また他の人と同じ発言をしてしまった。

 その日の夜、カーク社長とのディナー、案の定、彼は私に言った。
「あなたはまだ他人と同じ意見を言っていますね」
 そこで、私は彼に説明した。
「いや、自分の意見を用意していたんですけどね。私の前の人がそれを言ってしまったんですよ」
 すると彼が言った。
「述井さん、会議にはいったい何人参加していますか?」
「司会者を除いて5人です」
「あなたは5つくらいの答を用意出来ないのですか。
あなたが他の人と同じことを言っていたら、あなたはこの会議に出ている意味がありません。
昨日の会議は4人でやっていたようなものです」
 あっ、そういう事ね。
日本とは違う、日本では会議の中で誰かが良い意見を言うと「私もそう思います」と、皆その意見に同調する。
つまらない事を言うとバカにされる。その意見より良い意見でなければ言う必要がないと思う。
しかし、ここでの会議はなんとなくブレーンストーミングの感じ。
 そこで、私は言った。
「だったら、私の席は不利だ。私の席は最後に意見を聞かれる席、皆に意見を言われてしまう」
 すると彼が言った。
「あなたは分かっていない。あなたをその席に座らせたのは私だ。
私はあなたと2年半日本で仕事をしてきた。私はあなたがクリエイティブな考え方が出来る人だと思う。
もしあなたがクリエイティブな人でなければ、私はあなたを最初に意見を言う席につけている。
 また、あなたはこの会議にでるのは初めてだ。
私はあなたに日本に述井という優秀な人間がいるということを世界にアピールするチャンスをあげたつもりだ。
最後になってもまだそんな考え方があるのかとね」

 5人いれば5つの考え方がある。これが世界の考え方だ。
日本では、5人いても考え方を1つにしようとする。人と違う考え方をすると変人と言われてしまう。

 それ以来、私は日本に戻ってから社長であるミスター・カークへの話し方を変えた。
以前の私は、彼から意見を求められた時、自分の意見を言うよりまず彼はどう考えているだろうかを考え、反対意見をいうことは控えていた。
会社に勤めた経験のある人なら分かると思う。
「君はこの件どう思うかね?」
 と、上司から質問された時、自分の考えを言うことよりも、自分の上司がどう思っているかを考える。上司と違った意見を言おうものなら
「君は分かってないな。もっと勉強しなさい」
 しかし、上司の考えを察知し、それを言うと
「さすがだ。よく分かっているな、君は」
 と、言われる。
 私達は、意見など聞かれていない。試されているのだ。
しかし、5人いれば5つの考え方がある。それが英語の考え方だ。
それからの私は、カーク社長の質問に、彼に合わせるのではなく自分の考えをしっかり伝えるようにした。
その時大切なことは、「その考え方がクリエイティブであるかどうか!!」ということである。