述井庸治に

《国際会議初日》


 いよいよ会議がスタートした。
オーディトリアム(大会議場)にてカンファレンスのスタートが宣言された。

プログラムの中に、各国からのリポートという項目がある。
毎年3つの国が当番制で自国の状況についてリポートする。
今年は日本の番、世界の人々の前で、私は日本の状況について発表しなければならない。
しかも英語である。かなりナーバスになっていた。

 会議が始まる前、初めてこの会議に参加する私は他の国から参加している数人の人達と挨拶を交わした。
挨拶の中で、私は言った。
「I'm very nervous.」 (とても緊張している)
 すると、彼らが私に言ってくれた。
「Enjoy the conference!」(会議を楽しんでいけよ)
 私は、OKと言いながら、心の中で呟いた。
「これから、あの壇上に上がり世界からの参加者の前で、英語でプレゼンする。楽しめるわけないだろ」

 私がそのエンジョイの意味が理解出来たのは、翌年私がオフィスで国際会議の為の準備をしている時のことだった。
通常の仕事の他に国際会議の準備、私は多少バテ気味、もうこのくらいで帰ろうと思っている時だった。
 突然、悪友から電話が入った。
「飲みに行かないか?」
 この時、私は気づいた。
「ここで飲みに行ったら、私は会議をエンジョイ出来ない」

 それは、サッカーの中田英寿選手がイギリスのプレミアムリーグに移った時のことである。
日本からのインタビュアーが試合後、彼にインタビューをした。
 確かその試合は引き分けゲームだったと思う。
「今日の試合はいかがでしたか?」
 というインタビュアーの質問に、中田選手は答えた。
「十分エンジョイしました」
 さらにインタビュアーは質問を続けた。
「来週大事な試合がありますが、それについて何か?」
「ハイ。エンジョイしたいと思います」
 それが中田選手の答えだった。
 彼は今日の試合の為に納得するまで練習をしてきた。
もし失敗をしたとしてもそれは彼の責任ではない、彼の力がないだけのこと、後悔はない。
しかし、もし練習をサボって失敗したら後悔がのこる。
「あの時、練習しておけばこんな失敗はしなかったかも」
 後悔したくない。だから彼はやらねばならぬ練習は全てやる、そして試合に臨む。
あとはその試合をエンジョイするだけ。
彼は次の大事な試合もエンジョイしたい、楽しみたいのだ。
だからその為に十分練習する。

 昨年私が会議に参加し「とても緊張している」と言った時、「会議をエンジョイしていけよ」と、皆が私に言った。
「君はこの会議の為に十分準備してきたんだろう。失敗してもしょうがないじゃないか。会議をエンジョイしていけよ」
 という意味だったのだ。
 それからの私は、大事なプレゼンなどがある時、これだけは準備しようと思ったものは全て準備することにしている。
それで失敗しても自分の責任ではない。
自分はやるだけの事はやった。ただ自分の力がないだけ、後悔はない。あとはプレゼンをエンジョイすればよい。